予算特別委員会
意見開陳
◆自民・無所属クラブ代表(小林ゆみ委員) 自民・無所属クラブを代表し、議案第22号平成29年度杉並区一般会計予算外各議案につきまして意見を申し述べます。
杉並区の28年度は、突如として区によって示された保育緊急事態宣言から始まり、それに伴う待機児童対策に区政が大きく揺るがされた1年となりました。その結果、財政にも少なからず影響が及んでおり、特に基金と区債はアンバランスになりつつあります。今後の行政需要を見越しつつ、将来世代にツケを回さず、責任ある自治体経営を行っていくためには、財政運営は常に適正であるよう努めなければなりません。
そのような中で、私たち会派が示した29年度予算への要望は、強固な財政基盤を築きつつ、将来世代に必要な施策の中で区が行うものを峻別して着実に進めてほしいというものでした。
杉並区の29年度の予算案は、「時代の先を見据え、10年ビジョンを加速させる予算」と名づけられ、変化への対応を意識した未来志向の予算編成をしたとのことで、そのタイトルには共感し、期待を抱きました。そこで、私たち会派は、来年度予算が本当に時代の先を見据えた形になっているのかを予算審議に臨む柱に据えて、財政の面、行財政改革の面、また区長の区政経営に取り組む姿勢という、大きく分けて3つの視点から、以下、評価をしてまいります。
まず、財政について見ていきます。
平成29年度一般会計予算は前年度比3.5%増の1,780億5,000万円となり、過去最大の財政規模となりました。歳入については、ふるさと納税による影響額がマイナス約11億円ながら、納税義務者や区民の所得増の恩恵を受け、特別区税で約12億5,000万円の増収を見込んでいるほか、地方特例交付金は増収、交通安全対策特別交付金は横ばいとなっており、一方、そのほかの交付金に関しては大幅な減収となっております。
こうした中、区債について見ると、仮称天沼三丁目複合施設整備費や学校等の大規模施設の改築経費増などで50億5,820万円の発行が見込まれています。私たち会派は、区債発行について慎重に対応するように求めていましたが、区はこれまで、前任者の借金返済優先の財政運営から転換をするに当たり、23区の全体平均を持ち出して、区債発行に余裕があるとたびたび答弁をしていました。本予算案の経営計画書によると、23区全体の区債残高は減少傾向にあるにもかかわらず、杉並区は最小値の倍を超えてしまうほど年々増加し、23区平均にとうとう追いつき、さらにはそれを上回ってしまう勢いであり、これまでの区の見解から1つのターニングポイントを迎えます。
また、量だけではなく、質という面から区債の引受先を見ると、既に28年度に発行する区債のうち、額にして87%以上が市中銀行の短期債であり、この傾向は29年度も継続するという見込みです。民間企業でも、短期借り入れのつなぎ融資が急増するのは、資金繰りの苦しさを示しております。何よりも、これまで区が区債発行のもう一つの論拠としていた施設利用の世代間負担の公平な分担の理論が成り立たなくなりつつあります。
一方で、基金について見ていくと、財政調整基金からの取り崩しは、27年度当初はゼロ円、28年度当初は9億円であり、決算剰余金の2分の1以上を積み上げるというこれまでの財政ルールと過去の剰余金額の実績からすれば、この2年間の財調基金からの取り崩し額は許容範囲内であったと我々は評価してまいりました。
しかし、29年度の当初予算の段階で46億円という多額の取り崩しを再び行うということは、基金残高の積み上げ目標に多大な影響を与えることになります。その結果、区債と基金残高のバランスを23区平均から見ると、区債は、さきに申し上げたように23区平均を超えそうながら、基金は平均に遠く及ばず、これも、杉並区がかねてからたびたび引用してきた区債と基金のバランスは、23区との対比という点でもバランスを欠いた悪い状態となります。
私たち会派はこれまでも、規律ある財政運営に関しては、長期的な視点を持った財政計画をつくるべきだと主張してまいりましたが、このような視点こそが本当の意味での先を見据えた財政運営であると考えております。今後の行政需要として、本庁舎の改築を初め、学校の建てかえを毎年2校ずつ控えているにもかかわらず、長期的財政の見込みを立てていないことを見ると、区は本当に先を見通した財政運営をしているのかについて疑問を抱くところです。
また、区長は委員会質疑の中で、このような厳しい局面を迎えたにもかかわらず、相変わらず、大事なことは財政指標の数字の一つ一つをよくすることではないという趣旨の発言をされました。経営者にとって大切なのは、数字に縛られることではなく、分析数値を使いこなすことです。トップがその数値に近寄りもしないのは、自治体経営者としては、組織を間違った方向に導く可能性もあり、大変危ういものとして危惧をするものであります。
次に、予算を精査する上での大きな視点の2つ目である行財政改革について見てまいります。
区は主に、将来に向けての施設の老朽改築や、女性の社会進出に伴って高まる保育需要を理由として保育施策を進めておりますが、今後もこのままのペースで保育施策を進めていけば、今年度からの約4年間で定員は合計5,000名増加する予定であり、保育経費は区費だけでも毎年65億円ほどかかってしまい、膨れ上がる保育関連経費はとどまるところを知りません。また、平成30年代には、学校改築の投資だけでも毎年60億円以上が必要ということが確実であります。これら必要な施策の財源を確保するために自主財源の確保は大切であり、それとともに無駄な事業を見直し、その成果で得られる財源を必要な施策に振り分けていくというめり張りのある区政運営が今こそ求められているのではないでしょうか。
そういった視点で行財政改革の取り組みについて見ると、財政効果見込み額は、田中区政が始まって以来最低である約5億2,700万円、また職員削減見込み数は10人となっており、これでは行財政改革に対する取り組みは到底積極的とは言えません。一方、新規事業については、来年度予算案のうち、ふるさと納税関連725万円のみであり、まずは既定事業、投資事業にしっかりと取り組まねばならないという考えから、新規事業が少ない点については評価をするところであります。
しかし、これは言い方を変えれば、既定事業と投資事業に配分する予算が膨らんでいることの裏返しであり、新規事業を打ち出す余力がないとも言えるわけです。このまま区財政が窮屈になっていくことがあれば、新規事業どころか、必要な区の事業が進められなくなるところも出てきてしまうと危惧をするところです。年々高まり、多様化する行政需要全てを受け入れるのではなく、自治体がどこまで担うべきかについては、施策ごとに常に考慮すべきであると指摘をしておきます。
次に、3つの視点のうち3点目といたしましては、区長の区政運営に取り組む姿勢についてであります。
その1つ目として、来年度予算案の新規事業であるふるさと納税を例に述べてまいります。
区長は、1月31日、予算案が公表される区長記者会見で、過熱する返礼品競争の結果として、杉並区の自主財源である住民税が11億円失われることに対して警鐘を鳴らし、問題点を提起されました。それに対しては、我が会派も一定の理解はいたします。ただ、杉並区のふるさと納税施策については、問題点が3点あると考えています。
1つ目に、ふるさと納税に関連する意思決定プロセスについてであります。
当委員会で私たち会派の委員が確認した内容を振り返ると、まず、平成28年6月28日にふるさと納税制度検討会を立ち上げ、返礼品を通した区の魅力発信のあり方などについての検討を開始し、同時に、区内産業団体に協力を依頼いたしました。また、11月4日の経営会議において、ふるさと納税制度の活用についてが議題となり、方針が決定され、そこでは、新たな制度の導入によって杉並区への寄附増加額は約1億円、返礼品や委託料、事務経費として寄附額の7割程度が見積もられていました。そして、11月14日には、公募プロポーザルによって返礼品等業務委託事業者の募集を開始し、12月19日には、選定委員会においてその事業者が決まり、平成29年1月13日には、ふるさと納税返礼品等協力事業者に対する説明会が予定されていましたが、その説明会は開催3日前に突然中止されてしまいました。
このように、半年近くかけて区で取り組んでいた施策を、区長がトップダウンで思いつきのように方向転換をしたことについて、当委員会内では苦言を呈しました。それにもかかわらず、答弁の中では、区長はこの問いかけについて「難癖」というフレーズを使い、まるで委員が区長に単なる個人攻撃をしているかのような表現をされました。
今回の質問は、ふるさと納税制度の導入に当たり、昨年より現場で働く区職員が準備を進めてきたことに対して、年明けに急遽方向転換をしたことで、想定していた税収確保額が大きく目減りすることになる政策決定の経緯を時系列で、かつ事実に基づき指摘したものであります。これを区長は「難癖」と切って捨てる表現で答弁したことは、制度導入に向け入念に取り組んできた区職員の働きを否定し、返礼品等業務委託事業者及び前向きに協力してくれようとしていた返礼品等協力事業者など、さまざまな方面に配慮を欠く失言と強く指摘をするものであります。自身の意に沿わないものに対して、難癖として耳を傾けない姿は、議会人の大先輩としてがっかりし、新人の私は、ショックさえ受けました。ひいては、自治体のトップとしての資質には大きな疑問を感じた次第です。
また、問題点の2点目として、返礼品についてであります。
区長は、ふるさと納税制度に対する問題提起として、過熱する返礼品競争を引き合いに出しておられました。しかし、そうであるならば、当区で次年度行うふるさと納税制度は、返礼品を一切出すことなく、過熱する返礼品競争から一線を画す姿勢を示し、御自身の主張の筋を通すべきであったと思います。どう見ても中途半端さが残り、全然潔くありません。本来ならば、制度の不備を内外に訴えつつ、当初の予定どおり節度ある返礼品を用意し、むしろ選ばれる杉並区として、杉並区全体の魅力度を高める不断の努力に努めるべきではないでしょうか。区長の思いつきによる痩せ我慢は、財政的にも、本来収入するはずの見込み約3,000万円もロスすることになり、区民にも迷惑がかかってしまいます。
お肉などの返礼品を定めている自治体では、ふるさと納税の返礼品とすることで地場産業の活性化と振興を図る狙いがあるようですが、こうした自治体の取り組みを、肉食欲でつるという、地方の産業実態を軽蔑するような、品がなく、侮蔑するような表現で批判し、私たち会派は、その姿勢を代表質問等で問題視しました。
また、杉並区の交流自治体の中には、このようにお肉を返礼品としている自治体がありますが、このような杉並とがっちりスクラムを組んでいる交流自治体をも暗に批判しているともとられかねない表現は、御自身でスクラムを崩すようなものであり、ラグビーでは危険な行為としてペナルティーが与えられます。区長には、御自身が発する配慮のない発言の重みを改めて省み、今後細心の注意を払うよう求めます。
そして、3点目の問題点として、区長は東京一極集中についても批判をしていますが、一方では、保育待機児童解消のための人材確保策として、区内共通商品券を配布するという自治体間の競争をあおる施策を行っており、区長の考え方と施政方針には矛盾を感じざるを得ません。
ここではふるさと納税を例に取り上げてまいりましたが、これは1つの事例であり、このほかにも、区長の方針演説が議会に公表される前に区のホームページにアップされていたことを会派の委員が指摘をいたしました。さらに、私たち会派の質疑の中で、国際交流自治体の公式文書の内容確認を怠っていたなど、区長の区政運営に対する姿勢が、こうした役所全体の気の緩み、緊張感のなさにつながっているのではないかと指摘をいたします。
以上、当委員会質疑において、私たち会派が平成29年度一般会計予算を判断する上で着目した点について述べてまいりました。
次年度予算案は、さきに述べたように、財政面の不安、行革の甘さ、区長の区政運営に対する緊張感のない取り組み姿勢という点から、「時代の先を見据え、10年ビジョンを加速させる予算」とは評価しがたく、議案第22号平成29年度杉並区一般会計予算については反対をいたします。特に財政面については、今後財政悪化が懸念される予算として警鐘を鳴らす意味でも反対といたします。
次に、国保への繰入金が多額になっていることについては気になるところですが、事業を成り立たせるためには仕方のないことであるため、国民健康保険事業会計と各特別会計については賛成をいたします。ほか、各関連議案については全て賛成といたします。
以下、個別の施策について、何点か意見を述べてまいります。
初めに、29年度も目玉施策となるであろう保育施策について触れます。
代表質問でも述べましたが、我が会派は、保育施設を対症療法的につくるのではなく、ピークアウトを見据え、計画的に整備すること、また、杉並区を全体的に俯瞰した場合の地域的なバランスに配慮した認可保育所整備と計画策定を望むものであります。
保育に対する2点目は、保育料の適正化に対する意見であります。
ここで、そもそも福祉という言葉の概念に立ち返ると、英語で言うとウエルフェアであり、その語源である、よく、うまく、満足にという意味のウエルと、旅という意味のフェアが合わさった言葉です。これは、生きること自体がつらい旅のような状況にある孤児や失業者などの生活を満足に、つまりマイナスの状態から救おうという意味合いで、1904年、そういった関心が社会において高まった際に生まれた言葉であります。日本語訳では、福祉、福祉事業、生活保護と訳されます。
その日本語訳からもわかるように、福祉の対象は全体の少数派を指しており、その限界は多くても全体の2割と言われているため、現在の杉並区が福祉の対象とする割合は余りにも大き過ぎると言わざるを得ません。
今般の質疑の中で確認したように、保育利用家庭のうち、所得が1,000万円以上の家庭が46%を占めることから、福祉と一般的なサービスが混在したものを自治体が行うことになってしまいます。そのため、受益者負担の観点から、保育料の適正化が急務です。また、保育関連経費が自治体財政を圧迫している現状から、自主財源確保という点からも必要となります。区は29年度から検討、30年度から開始という計画を持っていますが、質疑の中において、保育料値上げの周知期間を設ける必要があるため、早急に取り組まねばならない課題であると指摘をいたしました。区はこのような状況を真摯に利用者に説明し、納得いただくことが大切ですので、丁寧かつ迅速に対応していただくよう要望いたします。
また、保育業務の民間委託について、31年度までに4園を民間委託するということを質疑において確認いたしましたが、保育園民間委託についての長期プランの策定を要望いたします。
最後に、杉一小等複合施設整備の検討について一言申し上げます。
先月24日の総務財政委員会の報告資料として、「杉並第一小学校等複合施設整備の検討-中間まとめ-」が公表され、今月3日には、杉一小周辺まちづくりに関する検討状況報告と意見交換会が開かれました。
この予算特別委員会で、今後のスケジュールについては、3月末までに整備方針案が示され、4月から5月にかけて整備方針が決定されるとのことですが、平成29年度予算案では、当初計画であるA案を執行させる予算が計上されています。今回の予算審議では、整備方針がどちらの案になるかわからない、不確定な現状の中で行われたわけですが、整備方針決定前に議決という議会の判断を先行させてしまうことは、これからの整備方針の決定に予断を与えることにもなりかねません。現状、A案について一旦立ちどまっているのであれば、予算の組み方として、A案に関連した予算は科目存置して財源保留する予算の編成方法もあったのではないのでしょうか。今後の当初予算の組み方については検討を求めるものであります。
また、私ども会派から質疑の中で指摘したとおり、中間まとめにおいて示されたA案、B案の経費において、ランニングコストを含めたトータルコストの試算がなされておらず、先を見据えた適切な判断が本当にできるのか、一抹の不安を感じざるを得ません。このようなことから、周辺住民や学校関係者などが正しく判断する材料が出そろっているとは言いがたく、方針決定までには検討材料としてしっかり提示されるよう求めます。
さらに、子供たちの良好な教育環境を確保し整備する責任を負う教育委員会において、現時点までに、教育委員会の会議の議題に、両案を比較検討し議論した形跡がないことも、質疑の中で判明いたしました。杉一小の改築については、学校の老朽化に伴う整備の必要性がベースにあるにもかかわらず、病院用地への学校の移転改築の可能性が浮上してから、教育委員会として主体性を持って学校整備のあり方を検討している姿勢がかいま見えないことも指摘せざるを得ません。整備方針の決定までには、首長から一定の距離を置いた独立した行政機関である教育委員会においてしっかり両案を比較検討し、どちらの案がより子供たちの教育環境として望ましいのか、教育委員会としての意見を集約されるよう求めるものであります。
以上、予算に関連し、私たち会派の主な意見を述べてまいりましたが、このほか、予算特別委員会の質疑の中で要望したさまざまな事項については、真摯に受けとめ、改めていくべきところはしっかりと改めていただきますよう求めます。
結びに当たりまして、予算審議に対し御答弁いただきました区長初め理事者の皆様、資料作成に御協力いただきました職員の皆様、また、委員会運営に御尽力いただきました正副委員長に対して感謝を申し上げまして、自民・無所属クラブの意見といたします。
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