決算特別委員会
意見開陳
◆自民・無所属クラブ代表(小林ゆみ委員) 自民・無所属クラブを代表して、平成29年度杉並区各会計歳入歳出決算に対する会派の意見を申し述べます。 当該年度の国内景気を振り返りますと、海外景気の改善を受け、輸出関連産業を中心に生産が増加基調で推移したほか、設備投資や個人消費も上向きとなってきたことから、緩やかに回復しました。 個人消費に関しても緩やかな持ち直しの動きが見られ、夏場以降の天候不順などマイナス要因があったものの、実質総雇用者所得は緩やかに増加し、日経平均株価上昇による資産効果等もあり、消費マインドは徐々に上向きとなりました。 このような社会経済の状況下で、杉並区では、ふるさと納税により13億9,000万円の収入減があったものの、納税義務者増により特別区民税や特別区財政交付金などが増加したことから、一般財源そのものは増加し、歳入歳出総額は8年連続で増加となりました。それを考慮すると、当該年度は、杉並区としても財政状況を改善させるチャンスであったと言えます。 私たち会派は、29年度の決算審議に当たり、各決算を認定するか否かの判断基準として、1、適切に財政運営がなされているか、2、適切に事業が執行されているかという、28年度決算と同様、主に2つの観点から決算審議を進めてまいりました。 まず1つ目の観点、適切に財政運営がなされているかという点を見てまいります。 経常収支比率についていうと、当該年度は82.6%でありました。冒頭でも申し上げました特別区民税の増のほかに、利子割、配当割、株式等譲渡所得割交付金などの増により、経常一般財源等総額が32億7,000万余、前年度比2.8%増加という好材料がありながら、一方で、扶助費や公債費の増により、経常的経費充当一般財源等が35億3,000万余、前年度比3.7%増加いたしました。つまり、収入増を上回る支出増をした結果、前年度に比べ、経常収支比率0.7%増となりました。 経常収支比率を80%以下に抑えることは、区みずからが24年度に定めた財政健全化と持続可能な財政運営を確保するためのルール、以下、財政のルールと申し上げますが、こちらの筆頭に据えられています。まずは、当該年度にこの基準を満たさなかったことを重く受けとめる必要があります。 何らかの経済状況等からたまたま財政指標が一時的に悪化することもあり得るので、単年度だけを見て評価すべきではありませんが、経常収支比率については、基準値超えが、28年度に引き続き連続でルール破りとなってしまい、しんしゃくできません。 さらに、80%超えでも、せめて少しでも28年度から改善に向かっているならまだしも、28年度の81.9%から82.6%と数値が悪化しており、事態はさらに深刻です。 加えて、財政のルールを制定した24年度から29年度までのこの6年間で、この筆頭ルールが守られたのは26年度、27年度のたったの2年だけであり、残り4年は守られていないということから、そもそもこの存在意義が疑われます。 これらのことについては、昨年の決算特別委員会においても私たち会派は厳しく指摘をしておりましたが、それにもかかわらず、このような結果になったことは大変遺憾であります。 質疑の中でもこの経常収支比率について答弁がありましたが、経常収支比率の分母についていうと、冒頭に申し上げたとおり、景気の改善の影響を受け、区税収入や交付金が当該年度は増加していることを考慮すると、仮に歳出が前年度並みであるならば、経常収支比率は小さくなり、改善するはずであります。つまり、問題は、分子に当たる数値である支出にあると考えられます。 分子については、人件費、物件費、扶助費がその多くを占めており、その歳出増の主因は保育関連経費の急増であり、区の答弁でも、もしも待機児童対策において手を緩めていれば待機児童が発生していたということを強調していました。 質疑において人件費等を確認してまいりましたが、その中でも、人件費比率のここ10年間の増減率が、23区のマイナス25%と比べ、杉並区はマイナス23%と低いことから見ても、当区の人件費削減のペースは遅いと言わざるを得ません。 また、補助金についても削減の余地がありますが、直近で見直したのは10件のみで、少な過ぎると言わざるを得ません。今後は、評価シートを有効活用し、適宜見直しを進め、必要なもののみ補助金として支出すべきです。 扶助費の増は、時代的な流れからある程度は避けられないとしても、それを上回るペースで行財政改革に挑む姿勢が必要でした。 また、事業の見直しについても、当該年度の事務事業の縮小は49件、廃止や他の事業への統合は26件のみとおっしゃっていたように、ここでもスクラップ・アンド・ビルドのスクラップの意識が欠けております。 時間の関係上、幾ばくか例を挙げてまいりましたが、支出を抑えるという努力が全体的に足りないことが、経常収支比率の悪化という結果として出たのであると分析いたします。 ここで、財政のルールを破ったことについての他委員との質疑における区長の御発言を引用します。「私からすれば、予算の編成権をあれやこれや、あれやこれやとがんじがらめに縛られるというのは、やっぱり私でなくてもね、公選で選ばれた首長にある種の編成権を預けるわけだから、そういう意味で、あれやこれやがんじがらめに縛られるのは、ちょっと私でなくても抵抗感があると思います。(中略)大事なことは、自治体が抱えている問題をどう解決していくのか」とのことですが、区長のこの御発言を聞いていますと、ルールを破っても構わないというように聞こえてしまい、自治体のトップとして見た際、ルールに対して無自覚のそしりを免れません。 次に、基金について見てまいります。 本年2月からの予算特別委員会で、私たち会派は、独自に30年度当初予算ベースでの各区の基金総額を調べ、ランキング化することで、当区の基金額の現状把握や課題を指摘いたしましたが、今回も23区内の比較という視点を活用させていただきました。 そこで、29年度決算ベースでの他区との比較を調べましたが、基金総額では23区中17位、区民1人当たりの基金額の順位では、30年度当初予算の21位から1つ下がり、下から2番目という現状がわかりました。 また、23区平均の基金額は730億から812億へ1.11倍増加しているのに対し、杉並区では1.09倍にとどまっていること、さらに、杉並区の基金総額は当初予算段階では23区平均の61%であったものが、今回の決算額で見ると60%となお後退していることも指摘させていただきます。このため、経常収支比率に続き、基金の状況も減退していることがわかります。 次に、区債についてです。 公債費の引受先を見ると、ここ数年市中銀行が多くなっている現状があり、当該年度もそのような傾向があります。公的資金から調達すると金利は低く抑えられますが、各地方自治体の施設の老朽化に伴い、改築経費が必要なため、公的資金への需要が高まっており、自治体間で枠を奪い合っております。そのため、杉並区でも市中銀行からの調達の割合が多くなっています。 市中銀行からの資金調達は満期一括償還が基本となり、当該年度は比較的長い10年満期のものでありましたが、さきに発行した28年度は4年ないし5年の満期一括償還で発行した債券が多く、32年度と33年度は元利償還額が大幅に膨らんで、その年度の財政が圧迫される要因となってしまいます。 次に、補正予算に言及しますと、29年度補正予算(第1号)は、工事単価増による専決処分の補正でしたが、当初予算段階で織り込むことも可能でありました。28年度も7回の補正予算を組んでおり、前回決算審議の際も、私たち会派は、補正予算の乱発は控えるべきと指摘をさせていただき、区の答弁でも、今後二度と繰り返さないと言っていたにもかかわらず、当該年度も6回という結果を見ると、私たち会派の指摘が生かされておらず、相変わらず行き当たりばったりの区政運営という印象を受けてしまいます。 執行部は今後、当初予算案作成の際に、しっかりと先を見据えて編成することを肝に銘じていただきたいところです。 以上述べてまいりました理由から、当該年度は適切な財政運営をしてきたとは言いがたく、決算認定の1つ目の基準は、残念ながらクリアできていないと判断いたします。 次に、2つ目の観点、適切に事業が執行されているかという判断基準から当該年度を見ていきます。 成果指標の達成状況について、執行部はこれまでたびたび、8割の項目が、現計画における33年度の目標数値の7割以上の達成率となっておりますと、微妙な表現を用いて胸を張っておりました。 そこで、総合計画の中の施策指標の目標達成状況について、私たち会派は質疑をしましたが、全指標84項目のうち、28年度は目標達成数が33項目であったのに対し、当該年度は9減って24項目であり、実は大きく後退しているということが明らかになりました。 監査意見書の中では、総合計画について、「数値目標の達成度に一層留意され、」との簡略な記載があるものの、実際は、達成した指標の割合が30%弱で、これは総合計画初年度である平成24年度以来の低いレベルであります。 さらに、28年度は数値目標を達成していたが29年度は達成できなかったものが14個、28年度に数値目標が達成できておらず、29年度も引き続き達成できなかったものが42個であることを考えると、施策指標の目標達成は大変厳しい状況であり、これは、総合計画の残り3年は大変な苦労を要することを意味します。 よって、2つ目の決算認定の判断基準もクリアできているとは言いがたい状況です。 以上、一般会計における歳入歳出決算に対する会派の意見を述べましたが、1つ目の観点、適切な財政運営が行われているかについては、我々の基準に達しておらず、2つ目の観点、各事業が適切に執行されているかについては、そのように認めるには抵抗があります。したがって、総合的に判断し、平成29年度一般会計歳入歳出決算は不認定といたします。 次に、特別会計について申し上げます。 質疑において、杉並区中小企業勤労者福祉事業に参加している事業所の従業員数と所在地が、27年度以降、杉並区中小企業勤労者福祉事業に関する条例に違反していることを区が認識していながら、必要な是正措置を講じてこなかったこと、それによって、29年度に3名の内部職員が戒告処分とされたことを確認いたしました。そもそも区が認めてしまっているというゆゆしき事態であるため、中小企業勤労者福祉事業会計は不認定とさせていただきます。 なお、審査意見書の中では、中小企業勤労者福祉事業会計及びこの条例違反の件について監査も指摘しておらず、全く言及しない理由について、質疑において指摘したところ、保険事業に比べて、会計規模、対象となる区民の数が桁違いに小さいということを挙げていましたが、私ども会派は、監査として、合規性、合法性という観点を踏まえて判断すべきであったと指摘をしておきます。 その他特別会計については認定といたします。 本委員会は議員全員参加でありますので、我が会派の質疑の内容については周知のことでありますが、以下、この場では、質疑の要点を踏まえた問題提起、また、時間の関係で省略された課題等について簡潔に述べます。 私たちの会派は以前より、さまざまな財政指標を組み合わせた、新しくより厳しい財政健全化のルールを検討するよう要望してまいりましたので、この際、ここで新たな財政のルールについて述べていきます。 決算審議の中では、新ルールについて、幾つかのルール項目の設定条件をかみ合わせるといささか矛盾する点があることを指摘いたしました。当該年度は現行ルールの適用となりますが、新ルールにおいては、現行ルールの1番目の柱である経常収支比率を外しているのは違和感があり、まるでこのルールを満たせないことから新しいルールに切りかえたかの印象が残ります。 財政の弾力性を示すには、行政コスト対税収等比率と経常収支比率の並行活用が望ましいものです。新たな財政のルールの筆頭に、「財政調整基金の年度末残高350億円の維持」が明記されていますが、350億円の内訳については、大規模災害時の備え150億円、経済事情の変動などによる減収の備え200億円とのことです。 大規模災害時の備えについては、他自治体を参考にしたと質疑で確認をいたしましたが、なお算出根拠が曖昧です。杉並区はせっかく独自の地震被害シミュレーションを行っているのですから、このシミュレーションの取り組みを最大限に活用するため、杉並区として被害想定額を算出して備えるという目標額にすべきであります。 もう一方の、経済事情の変動などによる減収への備え200億円の設定根拠にも疑問が残ります。例えば財政再生基準から考えると、実質赤字比率が20%を超えると、杉並区は事実上自治体の倒産、破産という状態になりますが、29年度の標準財政規模から逆算すると、一般会計等の実質赤字額232億円がこの20%に当たります。新しい財政のルールの200億円設定だと32億円不足してしまうことになりますので、本来であれば、財政再生基準から算出して、標準財政規模の20%を基金として確保したほうが、明快で力強い積み立て根拠になります。 このように、本来であれば、経済事情の変動を想定した上で、大規模災害や景気後退によって経営破綻するという最悪のケースを想定して基金を積むべきです。 行政コスト対税収等比率についても、わかりやすさということで、100%を超えないようにとおっしゃっていましたが、それと同様に、切りがよいから350億円ではなく、積立金は区民にしっかりと説明できるような根拠を持った形で積まれるべきです。 また、施設整備基金の毎年40億円の積み立てという新ルールの積算根拠は、施設白書から、30年間の施設再編整備の必要経費の年平均115.1億円をベースにしており、この総額の構成を分析しました。 ここで、まず、これまで明らかにならなかった施設再編整備の30年スパンの金額の削減率ですが、思いがけず、ここで5%程度という消極的な設定が見えてきました。いかに積算根拠上の仮の計算値であったとしても、将来の人口推計から判断しても、余りにも志の低い設定であると指摘せざるを得ません。 また、その他の構成は、国・都支出金約11億円、区債約27億円、一般財源分約32億円、残り約40億円が施設整備基金積み立て目標分となります。 また、この想定では、区債分は施設再編整備30年間で810億円と巨額になりますので、区債発行額を抑制するためには、できるだけ施設整備基金の積み上げ額を増す必要があります。さらに一般財源分年32億円も、扶助費が右肩上がりで増大し、財政の弾力性を年々圧迫していき、資金余裕の先細りは目に見えております。積み上げ目標40億円はあくまでも最低ラインとはいうものの、今のうちにさらに上乗せした目標設定が必要であります。 続いて、行財政改革についていえば、扶助費等が年々増加していくことを考えると、今後は民間委託、職員の適正管理、超過勤務の削減をスピードアップしていくことが緊要です。 また、他自治体の中ではAIやRPAの実証実験が進んでいることもあり、区も不可欠な取り組みとおっしゃっていたため、研究、検討と足踏みをせず、早急な導入を求めます。 最後に、区長の姿勢について、何点か申し上げます。 田中区長は質疑において、財政指標を1つ取り上げてよい自治体だと判断することはそもそもおかしいんだとおっしゃっておりました。無論、財政指標をよくすることそれ自体が、区が目指す目的ではありませんが、適正な財政目標を目指すことは、将来世代の杉並区民を守ることとイコールであります。 そして、そもそも区長は、御自身のオフィシャルウエブサイトにおいても、「財政健全化」という欄で、実質公債費比率1つを取り上げて杉並区の健全財政を訴えていることについてはどのように説明されるんでしょうか。 また、他の委員への答弁において、数値1つを見ることを非難する文脈において、人間の体に例えれば、健康診断の数値1つだけを見て不健康とみなすのはおかしいという例をたびたび挙げていました。今般、まさに区の健康診断で見落としがあり、お亡くなりになった方がいらっしゃったため、区長報酬の削減となった重大事件を審議している今定例議会において、健康診断の例を持ってくるのは不謹慎です。 さらに言えば、10月3日の決算審議における他の委員への答弁において、新しい財政のルールから経常収支比率を除外したことについて問われ、区長は、あろうことか、財政当局が言い出したことであるとし、責任を押しつけました。都合の悪いことに限ってはボトムアップであったと主張することは、トップの姿としてはあってはならないことであり、職員の方々に対して失礼千万であります。 以上、今後の区政運営に対する要望を申し上げてまいりましたが、一般的に物事の状況を判断する際に有効な視点として必要なのが、虫の目、鳥の目、魚の目であると言われております。自治体もこの3つの目でバランスのよい区政運営を目指していくべきです。 虫の目でしっかりと細部まで注意深く財務分析をする、鳥の目で区業務の全体像を俯瞰的に捉える、魚の目で時の流れを読み、これからどのように流れていくかをしっかりとつかむ、このような、多角的に見て均衡が保たれた区政運営を要望いたします。 結びに当たりまして、本委員会の審議及び資料作成に御協力いただきました区長初め理事者、職員の皆様、また公平公正な審議に御尽力いただきました正副委員長に感謝を申し上げて、会派の意見といたします。
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